【経歴】
代表取締役社長 大矢 雅士
1987年 大阪市入庁
2013年 交通局 民営化推進室企画担当部長
2016年 交通局鉄道事業本部鉄道統括部長兼民営化推進室鉄道事業担当部長
2018年 大阪市高速電気軌道㈱鉄道事業本部駅務部長
2019年 同社執行役員
2020年 同社取締役
2021年 ㈱大阪メトロ アドエラ代表取締役社長
2026年6月29日より現職。

2026年6月、大阪地下街株式会社は新たなリーダーとして大矢社長を迎えました。創立70周年という節目を迎えた今、これまで大阪地下街とどのように関わり、100周年に向けて何を目指すのか……。
これまでの歩みと、未来への思いを大矢社長に伺いました。
一利用者から職場、そして経営へ
私は大阪生まれ、大阪育ちです。梅田やなんばの地下街は生活の一部であり、ごく自然に利用していました。ただ当時は、「大阪地下街株式会社」という一つの会社が、いくつもの地下街を運営していることまでは知りませんでした。
それは地下鉄も同じでした。大阪の人にとって地下鉄はとても身近な存在ですが、「どこが運営しているのか」を意識することはあまりないのでしょうか。私自身も、大阪市役所へ入庁するまでは、それほど深く考えたことはありませんでした。
仕事として、地下街に関わる
社会人となって大阪市役所へ入庁し、配属されたのが交通局でした。それ以来、長く交通事業に携わることになります。交通局時代の仕事の中で、大阪地下街との関わりを強く感じた出来事が2つあります。
1つは、谷町線の輸送責任者を務めていた頃です。事務所は天王寺駅構内、ちょうど「あべちか」の下にありました。勤務期間は1年でしたが、毎日「あべちか」を通勤路として利用し、地下街が単なる通路ではなく、多くの人の生活を支える空間であることを肌で感じていました。
2つ目は、防災への取り組みです。集中豪雨などで地下施設へ浸水するリスクに備え、交通局と地下街、関係機関が一堂に会して議論を重ねました。
特に梅田エリアは、湿地帯を埋めた田園地帯(語源「埋め田」から)ということもあって、土地が低い位置にあり、「万が一、水が流入した場合にどう対応するのか」を真剣に話し合ったことを今でもよく覚えています。
大阪地下街の社長として当時をご存じの方と再会し、「あの頃、一緒に議論しましたね」と声を掛けていただきました。立場は違っても、「安全な地下空間を守りたい!」という思いは同じだったことを改めて実感しました。
日本中で甚大な自然災害が発生していますので、ハード・ソフト両面からさらにしっかりと防災対策に取り組んでまいります。
交通事業の民営化に尽力
交通局時代、私にとって最も大きな仕事の一つは交通事業の民営化でした。地方公営地下鉄・バス事業の同時民営化は日本初※の試みであり、多くの課題に向き合いながら、「大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro)」と「大阪シティバス株式会社」の誕生に取り組みました。
※2018年4月に実施された、日本国内における「公営地下鉄・バス」の民営化(株式会社化)として初の事例。
広告の未来を見据えた、デジタルサイネージへの挑戦

ホワイティうめだ「デジタル6」と「200シーリングビジョン」

御堂筋線梅田駅「Umeda Arch Vision」
民営化した「Osaka Metro」を経て、交通メディアの広告事業を行う「株式会社 大阪メトロ アドエラ」へ移ってから、私と大阪地下街との関わりはさらに深まりました。中でも3つの取り組みは、立場が変わった今でも続いている大きな関わりです。
1つ目は、大阪地下街が広告主として交通広告を出稿していること。
2つ目は、Osaka Metroの下でプロジェクトに参画している「梅田ゆかた祭」です。大阪地下街のコワーキングスペース「ONthe UMEDA」を会場として、アドエラがイベントの企画運営を行っています。
そして3つ目は、最も印象深い「ホワイティうめだ」に設置されたデジタルサイネージの運用・販売です。
私がアドエラの社長に就任した当時、交通広告は大きな転換期を迎えていました。紙媒体が主流だった交通広告のデジタル化を急速に進めていきました。
御堂筋線梅田駅の「梅田アーチビジョン」もその象徴でしょう。2019年に「地下におけるLEDスクリーン最大ディスプレイ」としてギネス世界記録に認定※されたこのサイネージは、単に映像を流すだけではありません。ヨコ40メートル・タテ4メートルの圧倒的な存在感で、イマーシブ空間における感動を生み出し、新たなコミュニケーションを創出しました。
アドエラには<動く人の、心を動かす。>というコーポレートスローガンがあります。私はまさにその言葉のとおり、人が行き交う場所だからこそ、人の心を動かす広告が生まれると考えてきました。
そこで、デジタルサイネージとデータを組み合わせた広告に挑戦しました。PDOOH(プログラマティック・デジタル・アウト・オブ・ホーム)というのですが、サイネージの近くにいる人の年代や性別などを分析し、どのような人にどれだけ見られているかを可視化する取り組みです。広告主が訴求したい対象(生活者)を絞り、その広告をご覧になった生活者の数をベースに広告料を決め売買させていただくこのシステムは、交通媒体社としては日本でも先駆的な試みであり、「交通広告でもターゲティングができる」という新たな価値を生み出しました。
この経験は現在でも大きな財産です。地下街は人が集まり、行き交う場所です。その空間価値をさらに高めるためには、「ハードだけではなく、人と人、人と街をつなぐコミュニケーションをどう生み出していくか」が、私は重要だと考えています。
※記録認定日:2019年11月30日。記録タイトル:「地下におけるLEDスクリーン最大ディスプレー」として。
受け継ぐべき本質を守りながら、新しい価値を創りたい
創立70周年という大きな節目を迎えたタイミングに、私は社長という大役を任せていただいたことに、大きな責任を感じています。
大阪地下街は、大阪というまちの発展とともに歩んできました。これまで先人たちは、地下街の「安全で快適な歩行空間」と「まちの賑わいを生み出す商業空間」の両立を目指し、多くの知恵と努力を積み重ねてこられました。その歩みがあったからこそ、今日の大阪地下街があると思います。
一方で、社会は大きく変化しています。人々の価値観やライフスタイル、消費行動も変わり、気候変動やインバウンド需要の拡大など、私たちを取り巻く環境も大きく様変わりしています。
だからこそ今、「100周年に向けて、私たちは何を目指すべきなのか」を改めて考える時期に来ていると感じています。
私がまず取り組みたいのは、社員とともに<会社の存在意義をもう一度見つめ直す>ことです。「私たちはどこから来たのか。何者なのか。そして、どこへ向かうのか。」この問いを社員一人ひとりと共有し、70年の歴史の中で守るべき本質は何かを確認しながら、新しい時代にふさわしい大阪地下街の姿を描いていきたいと思っています。
そのために必要なのが、会社全体の<リブランディング(企業の存在意義や戦略の再定義)>です。
ブランドとはロゴやデザインだけではありません。社会に対してどのような価値を提供する会社なのかを明確にし、その価値を社員はもちろん、ビジネスパートナーでもあるテナントの皆様とは「Win-Win」の関係を作りながら共有していくことが大切だと考えています。
地下街の未来を、みんなでつくる
現在は社長に就任※してまだ日が浅く、今は社員やテナントの皆様へのご挨拶を重ねながら、多くの話を伺っているところです。
長年にわたり大阪地下街を支えてくださっているテナントの皆様には、心から感謝しています。
その一方で、商業施設には常に新鮮さも求められます。同じ景色のままでは、やがて人の記憶から薄れてしまいます。
これまで築いてきた信頼を大切にしながら、新しい魅力を生み出していく……。その両立がこれからの大阪地下街には必要だと思っています。
また、大阪地下街は私たちだけで成り立つものではありません。地下鉄や鉄道各社、周辺の商業施設、地域の皆様など、多くの方々とのつながりの中で価値が生まれています。
だからこそ、これからは<エリア全体の価値を高める>という視点を、さらに大切にしていきたいと考えています。
※2026年6月29日付で代表取締役社長に就任。本取材は同年7月22日に実施されたものです。

お客様とのコミュニケーションを大切に
「賑わっているように見える」地下街ですが、実際には通行される方の中で、店舗をご利用いただく割合は決して高くありません。地下街は都市インフラとして、「人々が安全・快適に移動するための役割」を担っています。それはもちろん重要な使命です。
しかし企業としては、その価値をさらに高め、来街された方に店舗やサービスも利用していただくことで、<地下街の持続可能な経営>につなげていかなければなりません。
そのためには、<お客様とのコミュニケーション>を深め、「人が通る場所から、人が集まりたくなる場所」へと地下街の魅力を高めることが重要だと考えます。
私は広告事業に携わってきた経験から、人との接点やコミュニケーションの重要性を実感してきました。これからは「お客様ともっとつながる地下街をつくっていきたい」と思っています。
インバウンドや若い世代にも選ばれる地下街へ
現在、なんば周辺では地上に出ると、多くの外国人観光客で賑わっています。
一方で、地下の「なんばウォーク」に目を向けると、「まだまだその数は少ない」と感じています。海外には地下街という文化そのものが少なく、「地下へ行けば魅力的な空間が広がっている」ということが十分に伝わっていないのかもしれません。
「どうすれば地下街へ自然に足を運んでいただけるのか」案内方法や情報発信など、まだまだ工夫できることはあると思います。
また、「若い世代にも、もっと楽しんでもらえる空間づくりが必要だ」と考えています。これからは「買い物をする場所」というだけではなく、「そこへ行きたくなる理由」が求められる時代です。
例えば、イベントやデジタルコンテンツ、空間演出などを通じて、人と人が自然につながり、「面白い!楽しい!また来たい!」と思っていただける地下街を目指したいと考えています。
「そのために私たちは何をすべきなのか?」と、社員とも議論を重ねながら、新しい価値を一緒に創り上げていきたいと思います。
変化を恐れず、来たる100周年へ
70年という歴史は、大きな財産です。しかし、「その歴史に胡座をかいていてはダメだ」と思います。
社会は凄まじいスピードで変化しています。企業も、「その変化に対応し続けなければ生き残ることはできない」と思っています。
だから私は、社員の皆さんには「現状に満足せず、新しいことへ挑戦するんだ!」という気持ちを持ち続けてほしいと願っています。
経営としては、<リブランディング>をはじめ、会社が進むべき方向をしっかり示し、その道筋を明確にすることが私の役目です。その上で、「社員一人ひとりが主体的に考え、自ら行動できる組織をつくっていきたい」と思います。
また、Osaka Metro Groupの一員として、様々な面でグループ各社との連携を加速し、グループ価値を最大化することも重要なミッションだと考えています。
テナントの皆様とは、これからも良きビジネスパートナーとして、お互いに価値を高め合える関係を築いていきたいと考えています。
そして来街者の皆様には、これまで以上に「安全で快適」、そして「歩いて楽しい!行きたい!」と感じていただける地下街をお届けしたいと思います。
大阪地下街は、単なる商業施設ではありません。大阪という都市を支える重要なインフラであり、「人と人、街と街をつなぐ公共空間」でもあります。この空間の価値をさらに高めることが、大阪全体の魅力を高めることにつながると私は信じています。
70年の歴史を大切に受け継ぎながら、社員、テナントの皆様、そして来街者をはじめ様々なステークホルダーの皆様とともに、新しい大阪地下街をつくっていきたい、そのように考えています。
------------<来たる100周年へ向けた挑戦>は、もう始まっています。------------